手首の動きから歩行速度や左右別の歩幅を推定するAIが、246人の検証で、ポケット内のスマートフォンを使うモデルとの推定誤差に有意差を示さなかった。センサー信号と身長を入力し、接地のタイミングだけでなく距離や時間の指標まで直接出力する。
手首の6軸信号に身長を組み合わせる
Googleが開発した歩行推定モデルは、スマートウォッチのPixel Watch 1台から取得する3軸加速度と3軸ジャイロの生信号を使う。信号の取得頻度は50 Hzで、利用者の身長も入力する。
モデルの基盤は、時系列信号を畳み込みで処理するTemporal Convolutional Network(TCN)で、時計用とスマートフォン用に同じ構造を採用した。センサー信号から抽出した特徴表現に身長を結合し、その情報を最終予測層へ渡す。
接地時点を経由せず歩幅や時間を直接出力する
最終予測層には、指標ごとに分かれた出力部を置く。歩行速度と、歩行周期のうち両足が接地している時間の割合にはそれぞれ1つ、歩幅、足が地面から離れている遊脚時間、接地している立脚時間には左右別の出力部を設けた。この構成で、距離と時間に関わる歩行指標を直接推定する。
従来のTCNによる手法には、足が接地した時点などを求め、歩幅や歩行速度の算出に積分処理を必要とするものがある。新モデルは、誤差が累積しやすいその処理を経ずに各指標を出力する。学習用の信号は1秒重複する5秒間の区間に分け、単位が異なる出力の相対誤差を扱うため、平均絶対百分率誤差(MAPE)を損失関数に使った。
246人の歩行を計測装置と照らし合わせる
検証には、米国のGoogleと日本の京都大学で集めた246人、約7万の歩行区間を使った。参加者は18歳超で、歩行補助具を使わず、平衡機能や歩行に影響する疾患・状態がない人に限定した。歩行計測システムZeno Gait Walkwayを基準とし、左右の手首にPixel Watch 1を、前後のポケット、バックパック、斜め掛けバッグにスマートフォンのPixel 6を配置した。
歩行課題には、自分のペースで歩く6分間歩行と無理のない速歩に加え、膝装具の角度を固定して軽度・中等度の左右非対称を生じさせる歩行を含めた。評価は5分割交差検証で行い、同じ参加者のデータが学習側とテスト側にまたがらないよう、参加者ごとの全データを同じ分割へ割り当てた。時計モデルは両手首のデータで学習し、スマートフォンモデルのテストには前後のポケットのデータだけを使った。
スマホとの誤差比較と身長入力の効果
Googleの測定では、全歩行指標のMAPEと平均絶対誤差(MAE)について、時計とスマートフォンによる推定の間に統計的な有意差はなかった(p > 0.05)。時計による推定は、歩行速度、歩幅、遊脚時間、立脚時間を含む大半の指標で、基準値とのPearsonの相関係数rと、一致の程度を評価する級内相関係数(ICC)がともに0.80を超えた。両足が接地している時間の割合では、ICCは0.56〜0.60だった。
身長入力の有無を比較した実験では、身長を加えることで時計モデルの歩行速度と歩幅の推定精度が有意に改善した。手首のセンサー信号に身長を結合する構成の効果が、距離に関わるこの2つの出力で確認された。