電子パルスの幅を変えると、原子との相互作用の強さが大きく変わることが理論解析で分かった。結果は特定の量子特性を持つ電子ビームについて得られたもので、極短・極細のビームを波束として扱い、散乱を制御する道筋を示す。
原子より細いビームが平面波近似の境界を越える
電子顕微鏡は、電子の波としての性質を利用し、対象によって散乱されたビームから高解像度の画像を得る。従来の顕微鏡ではビームが対象粒子より十分に広く、無限に広がる平行な波である「平面波」として近似することで、相互作用の計算を簡略化できる。
最先端の走査透過電子顕微鏡は、ビームを原子よりもかなり細く集束できる。光で電子ビームを操作すると、時間方向にもアト秒の桁まで短いパルスを作ることができ、従来の近似では扱いにくい領域へ進んでいる。
電子波束の形状で散乱の非対称性を制御する
こうした極短・極細のビームを扱うため、理化学研究所の光科学研究部門に所属するYuya Morimotoと共同研究者2人は、電子波束が粒子によって散乱される過程を理論解析した。波束は、空間や時間に限られた広がりを持つ波のまとまりで、無限に広がる平面波とは異なる扱いになる。
解析は、超高速電子波束の形状を整えることで、電子散乱の非対称性を制御できることを示した。電子ビームの特性を操作することが、粒子との相互作用を調整する手段となる。
パルス幅が相互作用の強さを大きく左右する
形状の制御に関わる具体的な結果として、特定の量子特性を持つ電子ビームでは、パルス幅を変えると原子との相互作用の強さが大きく変化した。この結果は理論解析で得られたもので、任意の電子ビームに同じ変化が生じるとするものではない。
Morimotoらは、幅を変えても相互作用の強さはそれほど変わらないと予想していた。解析で得られた大きな変化は、その予想を覆した。
物質との相互作用から電子の量子状態を読む
相互作用は、電子ビームから物質へ働きかけるだけでなく、ビームの状態を調べる手段にもなる。理論解析は、電子と物質の相互作用を利用して、電子ビームの量子状態を監視できることを示した。
相互作用の強さを調整する用途として、理化学研究所はクライオ電子顕微鏡でのタンパク質損傷の低減と、半導体製造の効率向上を挙げている。いずれも今回の理論結果に基づく応用可能性であり、損傷低減や製造効率の改善を達成した結果ではない。