生体内の分子モーターF1-ATPaseが80度回転する過程を、固定部のゆがみと、それに続く回転部への押す力で説明できることが分かった。原子レベルの分子シミュレーションで見いだされた機構は、分子構造や単一分子の実験観測とも整合する。
120度の回転のうち80度の段階を解析
分子モーターF1-ATPaseは、固定部に対して回転部が120度動く構造を持つ。この動きは80度と40度の二段階に分かれ、理化学研究所の杉田有治らは、最初の80度の段階をスーパーコンピューター富岳による分子シミュレーションで解析した。
50万個超の原子と64個の中間構造を計算
従来の解析は計算上の制約を受け、原子の集団をまとめて扱う粗視化モデルを使うか、回転を駆動する外力を加える必要があった。今回の対象系は50万個を超える原子から成り、回転過程にある64個の中間構造を作成した。富岳では64本の分子動力学シミュレーションを並列に実行し、複雑な分子系の動きを調べることができた。
固定部の変形から回転部への力が生じる
解析で見いだされた機構では、まず固定部にゆがみが生じる。それに続いて回転部へ押す力が働き、80度の回転を駆動する。固定部を変形しない土台として捉えるのではなく、そのゆがみから回転部への力につながる過程として、回転を説明する。
分子構造と単一分子の観測にも整合
この回転機構は、クライオ電子顕微鏡で得られた分子構造や、単一分子分光を含む実験観測と整合する。杉田有治らは、同じ解析手法を次の40度の回転段階にも適用する計画である。