地域の行動・環境情報を学んだAIの出力が、公衆衛生の予測を改善した。Googleの地理空間基盤モデルPDFMは、用途別の微調整なしで既存モデルへ入力でき、国境地域の接種率推定やデング熱・コレラの予測で改善を示した。
地域の行動と環境を共通の数値表現にする
Googleが開発した地理空間基盤モデルPDFMは、地域の特徴を数値のまとまりで表す「埋め込み」を生成する。検索傾向、人の移動、施設の密度や混雑、気象・大気質を自己教師あり学習で圧縮し、月次で更新する。入力にはプライバシーに配慮した情報を使う。
初代モデルでは、米国本土の郡と郵便番号区域をグラフのノードにした。ノード同士は地理的な近接や区域の重なりに加え、集計した検索傾向の類似性でも結ぶ。グラフニューラルネットワークが、その接続を通じて周辺ノードの情報を取り込むメッセージパッシングを行い、特定の予測課題に依存しない地域表現を学習する。
この地域表現は、公衆衛生モデルへ追加する入力として利用できる。Googleによると、今回の評価ではPDFM自体を用途別に微調整せず、学習済みの埋め込みを既存の統計・機械学習モデルへ組み込み、従来の入力と同等以上の性能を得たという。
国境の両側を入力にして接種率を推定する
地域表現を国境の外まで加える効果を評価したのは、医療機関のMount Sinai Health SystemとBoston Children’s Hospitalだ。カナダ国境から150km以内にある米国146郡を対象に、米国郡の埋め込みへカナダの郵便番号区域の埋め込みを追加した。接種率モデルが受け取る地域情報の範囲を、国境の両側へ広げた構成である。
麻疹・流行性耳下腺炎・風疹を対象とするMMRワクチンの接種率推定では、モデルが説明できる分散の割合が0.159から0.216へ上がった。Googleが示した評価結果では相対約36%の改善に当たり、統計的に有意だった。
公表が遅れる死亡統計を地域表現で補う
地域の特徴を入力する方法は、心血管疾患の死亡数を推定する評価にも使われた。米国の郡別死亡統計には通常1〜2年の公表遅れがあり、人口・社会経済調査のAmerican Community Surveyで使う説明変数も、最大2〜3年前の状況を反映する。月次更新の地域表現は、こうした入力と比較された。
米国の医学教育・研究機関NYU Grossman School of Medicineは、3,091郡で心血管疾患死亡数の現在推定を評価した。郡当たり平均絶対誤差はPDFM入力で18.7人、従来の調査入力で19.1人だった。差は統計的に有意ではなく、死亡数の推定では従来入力に対する精度向上までは確認されていない。
感染症予測では地域ごとの発生リスクを捉える
英国のUniversity of OxfordとメキシコのTecnológico de Monterreyは、約2,450自治体のデング熱予測で、PDFMの地域表現を時系列基盤モデルTimesFMと組み合わせた。1カ月先の予測では、予測区間の品質を評価し、値が小さいほどよいWeighted Interval Scoreが0.0051低下した。この改善は統計的に有意だった。
Googleが示した評価では、精度改善は感染伝播が活発な自治体に集中した。そのような自治体の最大72%で予測精度が上がっており、改善の割合はメキシコの全自治体を分母とした数値ではない。
WHOアフリカ地域事務局は、コンゴ民主共和国の403保健区域・89週間を対象にコレラ発生予測を評価した。各週に高リスクと予測した上位5区域のうち、実際に発生した区域の割合を表すPrecision@5は、8週間先の予測で相対18.1%改善した。この改善も統計的に有意だった。