人工細胞に特定の物理的操作を加えると、膜に一つの泡状の突出が生じ、前後の極性が現れた。精製タンパク質から再構成した細胞骨格の力学的性質だけで、複雑な生化学的シグナルに頼らず細胞全体の形を変えられることが示された。
膜と精製タンパク質で形態変化を再構成する
理化学研究所の生命医科学研究センターで宮崎牧人が率いる研究グループは、膜で囲まれた小胞であるリポソームに、精製した細胞骨格タンパク質を封入した。これによって、細胞の形を支えるタンパク質のネットワークと膜を組み合わせた人工細胞を構築した。
この人工細胞系では、生細胞の複雑な生物学的過程に隠される膜変形の物理的機構を、単純化して調べることができる。実験対象を定量的に制御できるため、細胞骨格内の相互作用と膜の形態変化を結び付けて解析できるようになった。
アクチン繊維の切断からネットワークの破れへ
人工細胞内部の相互作用を解析するため、実験には大規模計算シミュレーションと理論解析を組み合わせた。この計算・理論面の解析は、パデュー大学との協力で進めた。
膜突出の分子機構を調べる計算モデルでは、繊維状アクチンの切断がネットワークの破れの発生と拡大につながった。局所的な繊維の切断から、ネットワークの構造が変化する過程を追った。
物理的操作で一つの膜突出が生じる
実験では、人工細胞に特定の物理的操作を加えると、単一の膜突出が一貫して生じた。この突出はブレブと呼ばれ、細胞膜が泡のように外へ膨らんだ構造である。
精製タンパク質から膜の形態変化を再構成した実験は、アクチン細胞骨格内の局所的な相互作用だけで、細胞全体の規模の形態変化を生み出せることを示した。
事前の非対称性なしに前後の極性が現れる
膜突出を生じた人工細胞には、前後の極性が自発的に現れた。この極性の形成には、生化学的シグナルも、あらかじめ存在する非対称性も必要なかった。アクチン細胞骨格の力学的性質だけから、前後を区別する状態が生じた。