Science

大容量の遺伝子運搬体、産生量が従来法の約100倍に

この記事のポイント

  1. 実現したこと

    HSVゲノムを保持した細胞に2種類のプラスミドを導入し、大容量の遺伝子運搬体を産生できるようになった。

  2. 実現の仕組み

    HSVゲノムの発現制御遺伝子を除き、別のウイルス由来の自動複製機構を組み込むことで、ゲノムを保持したまま細胞を増殖させる。

  3. 得られた結果

    同じ細胞スケールで比較した実験では、ベクター産生量が従来法の約100倍になった。

  4. 従来との違い

    産生時に巨大なHSVゲノムDNAを調製・導入する工程が、ゲノムをあらかじめ保持した細胞株の利用によって不要になった。

培養皿の細胞を拡大した模式図。細胞内に保持されたHSVゲノムを背景に、2種類のプラスミドが入り、遺伝子運搬体の粒子が産生されている。
AI生成画像

大容量の遺伝子運搬体「HSVアンプリコンベクター」の産生で、巨大なウイルスゲノムを毎回細胞へ導入する工程が不要になった。ゲノムを安定保持する細胞株を使う新技術「EASY-HSV」は、同じ細胞スケールで従来法の約100倍の産生量を示した。

巨大なゲノムを保持したまま増殖する細胞

HSVアンプリコンベクターは、単純ヘルペスウイルス(HSV)の粒子を利用する遺伝子運搬体で、最大150 kb、すなわち15万塩基対の遺伝子を搭載できる。一方、産生に必要なHSVゲノムも約150 kbと大きく、従来法ではこのDNAを産生細胞へ導入する効率の低さが大量製造の障壁となっていた。

産業技術総合研究所と国立がん研究センターは、HSVゲノムを核内の染色体外DNAとして安定保持しながら増殖するHEK293細胞株「293/HSV細胞」を樹立した。その構築では、ゲノムから遺伝子発現を制御するICP0、ICP27などを除き、エプスタイン・バーウイルス由来の自動複製機構を組み込んだ。発現制御遺伝子の除去で細胞毒性を抑え、自動複製機構によって細胞分裂に伴うゲノムの減少を抑える構成とした。

2種類のプラスミドでベクター産生を開始

ゲノムを保持した細胞株を使う産生技術「EASY-HSV」は、2種類のプラスミドを入力としてベクター産生を開始する。一方には目的遺伝子とICP0遺伝子を、もう一方の補助プラスミドにはICP27遺伝子を搭載する。これらを細胞へ導入するとHSV遺伝子群の発現が始まり、目的遺伝子を運ぶベクターが産生される。

産生に必要な巨大なゲノムは、すでに細胞内に保持されている。このため、従来法で必要だったHSVゲノムDNAの大量調製と、産生時にそのDNAを細胞へ導入する工程が不要になった。

同じ細胞スケールで産生量を比較

産業技術総合研究所と国立がん研究センターの実験では、新方式と従来法を同じ細胞スケールで比較した。従来法の産生量を1とする相対比較で、新方式のベクター産生量は約100倍となった。

プラスミドの導入に使う試薬についても、安価なポリエチレンイミン(PEI)で高力価のベクターを作製できることを確認した。高価な導入試薬であるLipofectamine 2000やLipofectamine 3000を使わずに産生できる条件も得られた。

蛍光でHSVゲノムの混入を調べる

細胞が保持するHSVゲノムについては、ベクターのウイルス粒子へ誤って封入される可能性を調べた。保持ゲノムには赤色蛍光タンパク質(RFP)の遺伝子を、ベクターには緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を組み込み、両者を蛍光で区別する実験を行った。

HSVゲノムが粒子に封入されて細胞へ運ばれれば、添加先の細胞で赤色蛍光が検出されると考えられる。ベクター溶液を添加した細胞の解析では、RFPを発現する細胞は検出限界下だった。この測定結果は、HSVゲノムが粒子へ封入される可能性が極めて低いことを示唆している。