火星の火山から伸びる細長い氷雲が、塵を核とせず水蒸気から氷粒子が生まれる過程を加えた大気モデルで再現された。急激な上昇と冷却がこの過程を引き起こす可能性があり、雲の生成機構を説明する手掛かりとなる。
毎朝伸びて消える水氷の雲
解析対象は、火星のアルシア山の風下に現れる細長い雲、Arsia Mons Elongated Cloud(AMEC)だ。水氷でできたこの雲は、南半球の春と夏に高さ20kmの火山の近くで形成される。
雲は毎朝生まれて成長し、最大1800kmまで伸びてから消失する。欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機Mars Expressが搭載する高解像度ステレオカメラは、2024年6月24日の撮影でも長さ約980kmの雲を捉えている。
氷粒子の核に塵を必要としない過程
一般的な雲では、水蒸気が塵などの粒子に凝結して液滴や氷粒子を作る。このように別の物質を核とする過程を不均質核生成と呼ぶ。
フランスのLMD・CNRS・ソルボンヌ大学に所属するJorge Hernández-Bernalらが、この氷雲の形成に関与すると考えるのは均質核生成だ。この過程では塵などの核を必要とせず、水蒸気から直接氷粒子が生まれる。実際の雲でこの過程が働いているという解釈は、モデルによる再現から示された可能性である。
火山が生む波で空気が急上昇する
研究で示された生成機構では、アルシア山を通過する風が強い波を生む。その波が湿った空気を数分で数km上空へ持ち上げる。
急速に持ち上げられた空気は冷え、温度が10分で30度低下する。この冷却に伴って相対湿度が急上昇し、水蒸気から氷粒子が生まれる条件につながる。
核生成を加えたモデルに雲が出現
Hernández-Bernalらは、Mars Expressの監視カメラVisual Monitoring Camera、高解像度ステレオカメラHigh Resolution Stereo Camera、観測装置OMEGAのデータをモデル化の基礎に使った。従来のシミュレーションは観測された雲の出現を再現できなかったが、均質核生成を取り入れると雲が現れた。
地域大気モデルによるシミュレーションを観測映像と並べると、双方で時間の経過とともに細長い雲が出現する。ただし、出現時刻、持続時間、雲の長さには違いが残っている。